日本語教師|「ありがとうございます」と「ありがとうございました」の違いを説明してみよう

仕事

こんにちは、フリーランスのちひろです。

私は現在、オンラインで外国人に日本語を教えています。

レッスン中は生徒から日本語のこまかな使いわけをほんとうによく質問されます。

自分がふだん感覚的に使いわけている日本語のニュアンスをあらためて聞かれると、回答に困ってしまうこともあります。

そこで、備忘録もかねて生徒から質問された内容と私なりの回答をまとめていきたいと思います。

初回となる今回は、日本語初級の生徒になんども聞かれる「ありがとうございます」と「ありがとうございました」のちがいについてご紹介します。

なぜ生徒が「ありがとうございます」と「ありがとうございました」に疑問をもつのか?

「ありがとうございます」vs「ありがとうございました」

この両者のちがいについて疑問をもつ外国人はとてもおおいです。

それもそのはずです。

たとえば「今日はありがとうございます」と言いたいとき、英語では「Thank you for today」となります。

一方、「今日はありがとうございました」と伝えるときはどうでしょうか?

じつはこれも「Thank you for today」なのです。

英語ではどちらも「Thank you」で言いあらわせるんですよね。

ここに日本語学習者の混乱ポイントがあります。

ですので、彼らには「ありがとうございます」と「ありがとうございました」のちがいをていねいに説明しなければなりません。

「ありがとうございます」と「ありがとうございました」をそれぞれどんなときに使う?

文法的に見ると「ありがとうございます」は現在形ですね。

「ありがとうございました」は過去形です。

ここにヒントがありそうですよね。

以下で、それぞれのフレーズをつかう場面をみていきましょう。

「ありがとうございます」をつかう場面

まずは「ありがとうございます」をつかう場面からです。

電車で席をゆずってもらったとき

かりに私が90歳のおばあさんで電車に乗っているとします。

日頃の運動不足がたたって、一刻もはやく座りたいのに車内はあいにく満席です。

仕方なく手すりにつかまって立っているとしましょう。

すると、席に座っていた女子高生がゆずってくれました。

その瞬間、私はなんというでしょうか?

「ありがとうございます」ですよね。

女子高生が “たった今” してくれた親切な行為に感謝してお礼を言います。

プレゼントを受けとった瞬間

おみやげやプレゼントをもらった瞬間はどうでしょうか?

このときもやはり「ありがとうございます」と言いますよね。

相手がプレゼントを買ってくれたのは過去のできごとです。

それにもかかわらず、私がプレゼントを受けとったのは “いまこの瞬間” なので過去形の「ございました」を使うことはありません。

デパートの店内放送

ショッピングモールやデパートで買いもの中、こんな店内放送を聞いたことはありませんか?

「本日はご来店いただき、誠にありがとうございます」

これは “今現在”、店内で買いものをしているお客さんに対する感謝をあらわすアナウンスですよね。

電車内でのシーンやプレゼントを受けとったときの会話とおなじく、“今” に焦点があてられています。

ほめられたとき

「そのメイクすてきだね!」と言われたときや「昨日着ていたコート、かわいかったね!」とほめられたときはどうでしょうか?

これに対するリアクションも「ありがとうございます」一択ですよね。

過去に着ていたコートについてほめられた場合でも、お礼の言葉が「ありがとうございました」になることはありません。

ほめ言葉を受けとったのは “たった今” だからです。

ですので、できごと自体が過去でもお礼の表現は現在形になります。

「ありがとうございました」をつかう場面

ここからは「ありがとうございました」をつかう場面をみていきましょう。

お店でお客さんを見送るとき

アパレルショップの店員となってレジでお会計を担当するとしましょう。

お客さんからお金を預かっておつりを返したあとは、こう言うのではないでしょうか。

「ありがとうございました。またお越しください」

店員の立場としては、お客さんがお店に来てくれたり商品を購入してくれた行動に対してお礼を言っていますね。

たった今、商品を買ってもらったという状況をふまえれば「ありがとうございます」でも良さそうです。

しかし、この場合は別れぎわのあいさつ的な意味合いも込めて「ありがとうございました」と言うのが自然なように思えます。

過去形でお礼を言うことで、“これにて接客終了” という意思表示ができます。

パーティーがおわったとき

パーティーを締めくくる場面ではどうでしょうか。

主催者はおそらくこう言うでしょう。

「みなさま本日はお集まりいただき、ありがとうございました」

このように、あるひとつの場面が完結するタイミングでは過去形を使う傾向にあります。

お店での接客シーンと似ていますね。

逆にパーティーがはじまる瞬間には「お集まりいただきありがとうございます。本日はお楽しみください」となりますね。

パーティーがまさにはじまろうとしているタイミングでは、現在形のほうがしっくりきます。

電話を切るとき

今度は、コールセンターではたらいてみましょう。

お客さんから問いあわせの電話がはいったとします。

たいていは「お電話ありがとうございます」からはじまりますよね。

お客さんの用件を聞いて、対応を終えたあとはどうでしょう。

やはり「本日はお問い合わせありがとうございました。〇〇が担当させていただきました」と、過去形で締めくくるでしょう。

私自身が生徒とのレッスンを終えるときもおなじです。

「今日はありがとうございました。また次のレッスンを楽しみにしています」というコメントでSkypeなりZoomなりから退出します。

両者のちがいをまとめてみる

「ありがとうございます」と「ありがとうございました」のちがいが、なんとなく見えてきたでしょうか。

私なりの結論としてお伝えできるポイントはふたつです。

ひとつめのポイントは、感謝の対象となるできごとが “たった今” 起きたことなのかどうか?です。

今この瞬間に起きたことに感謝するなら「ありがとうございます」がふさわしいでしょう。

電車で席をゆずってもらったときやプレゼントを受けとったときがその例でした。

逆に、前日のできごとにお礼を言いたいなら過去の話なので「昨日はありがとうございました」になります。

ふたつめのポイントは謝意を伝えるタイミングです。

そのタイミングが別れぎわや締めの瞬間ならば「ありがとうございました」を使うほうが自然に聞こえます。

例として、電話を切る直前やパーティーを締めくくる場面をご紹介しました。

「ございました」という表現によって、接客または当事者同士のコミュニケーションに一区切りつきます。

例外的に「ありがとうございます」を使う場合

別れぎわに「ありがとうございました」をつかう傾向があると言いつつも、例外もあります。

たとえば「いつもありがとうございます」というフレーズです。

一度は耳にしたり口にしたことがあるのではないでしょうか?

このフレーズなら、別れぎわにも使いますよね。

「いつもありがとうございます。それじゃあまた来週!」のようなイメージです。

「ありがとう」が過去形になるかどうかは、話し手と聞き手の関係性が今後もつづくかどうかにも左右されるように思います。

私が「いつもありがとうございます」と言う相手は、“いままでも現在も、そして将来的にもお世話になる人” です。

ですので、別れぎわであってもふたりの関係がこれからもつづくなら「ありがとうございます」が使えます。

あとがき

いかがでしたか?

私なりに「ありがとうございます」と「ありがとうございました」のちがいをまとめてみました。

「それはおかしいやろ!」「こんな場合もあるよね!」などのご意見があれば、ぜひコメント欄で教えてくださいね。

感覚的に使っている日本語を分析するのはむずかしいですが、楽しさもあります。

生徒との授業は私自身の学びの機会にもなっています。

外国人が日本語を勉強するうえで苦労している点についてはこちらにまとめました。

未読のかたはぜひご覧ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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